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風の向くまま
日常とかプレイ記とかまあ色々
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我が剣を其に捧げたもう
悲しみに涙するなかれ 傷つき苦しむことなかれ
我が望むは其の平安 安息の日々に微笑みたまえ
其を護らんがため 我が剣 我が力 我が命 総て其に捧げたもう
悲しみに涙するなかれ 傷つき苦しむことなかれ
其の平安のため 我が命を罪に浸したもう
願わくば 其の平安 何時何時までも尽きることなく
其が海に還るその日まで 其がその身を潮に浸す時を迎えるまで
我が剣 我が力 我が命 総て其に捧げたもう
其を抱きて生きることを 赦したもう

「あれえ?何してるの?」
 唐突に声をかけられ、カイルは視線だけを上――空に向けた。桟橋から身を乗り出してこちらを見つめているのは、十七、八歳ほどの少年――見た目でだけ言えばカイルもそうなるのだが――だった。短めの濃い金髪が夜風にさらりと揺れる。確か、リヒャルトといったか。
「そっかー。大丈夫?ボクも時々ミューラーさんに投げ込まれちゃうんだよねー」
「……それは、違うけど」
 しばしの見つめ合いの後、妙に的外れな答えに達したリヒャルトの言葉を否定して、とりあえず桟橋に上がる。髪から滴ってくる雫を無造作に払い落とし、カイルはリヒャルトと若干距離を離して桟橋に腰を下ろした。
「えーっと……女王騎士じゃない方のカイルさん、だっけ?」
「……カイルでいい」
 問われたことにぽつりと返す。なるべく口に出すことを心がけているが、どうにも「喋る」という行為がカイルには煩わしかった。しかし以心伝心というものが通用しない以上、仕方のないことである。特にこの城には、同じ名前の人間がいるのだし。
「平気?また溺れてるみたいだったけど。ボクも得意じゃないけど、泳げない人って大変だよねえ。このお城」
 またも誤解されているらしい。確かに黎明の紋章の所有者であるあの王子に拾われた時は完膚なきまでに溺れていたが、あれは不幸な事故だ。本来のカイルは、当時の海上騎士団でも右に並ぶ者がいなかったほど水練達者なのだ。海と共に育ち、自身を「海の子」と言い、「海流」と名を持つカイルにとって、「溺れる」などという屈辱的な目に遭ったのは後にも先にもあれだけである。
「泳ぐのは……得意だから。今までだって、競って負けたことはない。人魚だったら話は別だけど」
 口にしてみて、それが柄でもない自慢だったことに、カイルは自分が腹を立てていたと自覚した。
「そうなんだー。ボク群島の方はほとんど行ったことないんだよね。王子様に引っ張られてったニルバ島くらいしか見たことないや」
 にこにこと、欠片も邪気のない笑顔を見せるリヒャルトに、カイルはどことなく既視感を覚えた。
 若くして「剣王」と呼ばれるリヒャルトは、この軍の同年代の少年少女に比べて異質と言えた。ある意味でビッキーが近いかもしれないが、恐ろしく無邪気なのだ。まるで小さな子供のように。そのくせ戦場では鬼神の如き強さを発揮する。普段と変わらぬ笑顔のまま、花でも摘むように敵兵を屠っていくその様は恐怖以外の何ものでもないだろう。
 そして何より、自身が所属している傭兵旅団の副長であるミューラーを異常なまでに慕っている。それこそ公衆の面前で罵倒されようと、散々金棒で殴られようと、だ。「あいつ、頭おかしいんじゃねえのか?」と言われているところを目撃したことも一度や二度ではない。
 その総てが、自分と同じようにカイルには見えた。自分が無邪気だったかどうかは謎だが、誰かのために自分の総てを捧げようとするリヒャルトの姿は、まぎれもなく百四十年前の自分だった。
「……声を、聞いてた」
 カイルは空に散った星を見上げ、普段と同じ――落とすような口調で言葉を紡ぐ。
 もしかしたら、彼は決して「人」になりきれない自分の異質さを幾許か理解してくれるかもしれない。期待でも、願いでもなく、ただ淡々とそう思った。
「水があれば、聞こえる。あの河も、僕の戻る場所に繋がってるから。ずっと昔……先に還った彼らの声を、また僕に届けてくれる。まだ繋がっていられると……知ることが出来る」
 ぽつぽつと、やはり落とすように曖昧な言葉を落とす。詳しく話すのは得意ではないし、言う気もなかった。同時に、彼ならばコレで理解してくれるだろうという確信もあった。
「……カイルって、寂しいの?」
 思わず微笑が漏れた。人前で、目で見えるほど笑ったのは久しぶりだ。
「寂しくはない。海を通して、僕は彼らと繋がってる。それが切れても……僕の中で、まだ生きてる」
 そう、ずっと。自分が命を落とす時まで、きっと共に在ることが出来る。自分が彼らを忘れることなど、決してありはしないのだから。
「そっかあ……。ボクには……まだよくわかんないけどな」
「寂しい?」
「ううん。だってミューラーさんがいるもん」
「なら、それでいい。共に在ることだよ、リヒャルト。君の望みは、きっと前の僕と一緒だ」
 納得いかない様子で首を傾げるリヒャルトに答えは返さず、カイルは立ち上がって塔の方へと歩き始めた。
 まだ知る必要はない。彼も相手もまだ生きている。自分と同じものになるかどうかは、まだわからない。

耳に残るは 海のさざ波
我の総てを捧げし者よ 我が内にて永遠なれ
記憶の内に 薄れること 霞むことなく 平安を過ごしたまえ
其の還りし海と 我が内の其の姿を護らんがため
我が剣 我が力 我が命 総て 総て――
汝らのために捧げたもう

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リヒャルトでわかる通り、時間軸は5です。始めと終わりに入ってる擬似古文体の詩は私が好きなだけです。4主の心情をそれなりに基にして作ってますが。
何で4主が城にいるか、というのは流して下さい……。5でコンバートが出来ないことに激しくショックを受けた人間ですのでどうしても出したいんです、4主。一応折衷案も作ってあるし。ある意味で設定が混み過ぎて前に出したキャラ設定だけじゃわからなくなってきましたね……。近いうちに説明出します。軍の名前も無事決まりましたし。
ともあれ、シンダルの城(というよりもセラス湖)での4主とリヒャルトの何と言うこともない一幕。ある意味で「彼の果てに何を見る」の続編みたいに見えます。
この2ショットは前から書きたいと思ってました。我が家では非常に似通ったところのある二人なので。何かずいぶんと仲良くなってますが……共通点があるのを本能的に察知しているのと、お互いの剣の腕を認めてるんでしょうね。機会があれば手合わせとかも書いてみたいところ。殺陣苦手ですが。
わかりにくいですが、4主セラス湖に浮いています。しかも過去に初めて溺れて王子に拾われる、なんてオチが既に。カイルとは同性同名になっちゃってますし。(お前のせいだろ

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 底のない蒼穹とはるか彼方で交わるのは、柔らかく、しかし濃い緑。世界を二分する色の一方は、時折吹いた風になぶられ波打ち、生き物のようにざあっと鳴いた。
 視界の片隅で地平を遮るように佇む巨木と同様に草の中に身を浸し、コルセリアは地平を眺めていた。
 グラスカの宮殿では決して見ることのなかった、人工物に遮られることのない風景。それに新鮮さを感じながらも、完全にこの風景に浸ることは出来なかった。
 今の自分は、知っている。この草原もクールークであるなら、人々から陰さえ感じる街もまた、クールークなのだと。宮殿を出るまでは考えもしなかった世界が、今のこの国の姿であると。
 父と母は――知っているのだろうか。この国の本当の姿を。イスカスの陰謀に隠れて見失っているのだろうか。それとも、敢えて目を背けているのだろうか。
「――コルセリア?」
「きゃあっ!?」
 思考の渦に呑まれるのを阻むかのように一瞬で意識を現実に戻され、コルセリアは思わず悲鳴を上げた。いつの間にか、キリルが屈み込んで不思議そうに彼女の顔を覗き込んでいる。
「どうかした?ぼうっとしてたけど」
「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してて……」
 こちらの反応にキリルは軽く首を傾げながらも立ち上がった。
「ならいいけど、程々にした方がいいよ。眉間にシワ寄ってハインズさんみたいになっちゃうよ?」
「キリルッ!」
 真っ赤になって怒鳴ると、キリルは声を上げて笑ってくれた。
 良くも悪くも彼は感情豊かで素直だ。それが似合うと思うし、眩しいとも思う。こうしたたびの骨休めでよく目にする彼の、青年というよりは少年のような姿が、コルセリアは好きだった。別にそれ以外が嫌、というわけではないけれど。
「――あっ!」
 唐突に強く吹いた風がコルセリアの帽子をふわりと持ち上げ、さらっていく。反射的に手を伸ばそうとしたが、エメラルドグリーンの帽子は横から伸ばされた手に受け止められ、静かに彼女の許へと戻ってきた。
「今日は風強いね。気をつけた方がいいよ。大事なものなんだろう?」
 先ほどと変わらぬ屈託のない笑顔を向けてくるキリルから帽子を受け取り、何とか頷いた。彼は「戻ろう」と告げ、先に歩き出す。
 キリルは――何も言わない。何も聞いてはこない。気を遣っているのではなく、当たり前のように「コルセリア」という一人の人間を受け入れてくれている。それが何より嬉しかった。
 そんな彼が――好きだった。
「キリル」
 キリルが振り返る。風が彼の黒髪を撫で、金色の瞳をけぶらせた。
「――ありがとう」
 私を「私」として見てくれて。私に今の居場所を与えてくれて。
「どういたしまして」
 柔らかくキリルが微笑んだ。「戻ろう」と促してくるのに頷いて、彼の後を追う。
 一体どこまで通じただろうか。別にわかっていなくても構わないけれども。

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もうタイトル考えるのやめたな私!
そして私がやるとこの程度が限界です(ぉ
ラプソディア発売二周年、というわけで初のラプソネタ。戦闘時の会話を見ている限りではコルセリアのキリルへの片想いは確実にありそうなので、こんなネタになりました。
当初はラズリルだったのですが、ラプソらしい(群島は4なので)場所に移動。私的にラプソ(というよりもクールークかもしれない)のイメージであるザスタ草原へ。モンスター退治が出来る所とはそれなりに離れてると思って下さい……。
今回のものだとわかりにくいのですが……我が家のキリル君はプレイヤー心理が見事に反映されてしまったせいで黒いです。台詞はゲームそのまま、純粋な良い子ですが、笑顔のまま、悪気もなく毒を吐きます。抑え目だったとはいえそれっぽい台詞がほら一つ……!
反感買うのは覚悟の上です……。我ながら何度突っ込んだことか!でもプレイヤー心理をそのままネタに使ったりするせいでかなり書きやすいです。そのまま台詞に出来るので。
まあ、文章化する過程で可能な限りの毒を抜いておきたいとは思っていますが……。
とにかく、ラプソ二周年おめでとうございます!

 何時の世、何処の国でも迷惑な人間はいるもので、そういう奴は欠片もこちらの意見など聞いてくれない。
しかもここでは――
「テッド、パーティ入って」
「断る」
「山塊の島で宝探しする」
「行くって言ってない。大体そんなことしてる場合か」
「早く。鏡の前で二人共待ってるから」
「だから言ってないって……」
 その典型のような奴がいる。

「……いっそ祟られてるんじゃないかと思えてきたぞ」
「エルイールに行ってない分マシだと思う」
 手近な椰子の木の下に座り込み、やや遠い目で水平線を眺めながらテッドはぼやいた。傍らで同じように座り込んだカイルが、ロクに動きもしない亀を見つめている。
 当初のカイルの予定通り――こちらの意思は言うまでもなく無視だ――山塊の島へテレポートするはずが、気がついたらこの場所に立っていたのである。テレポートの直前、くしゃみが聞こえた気もするが、船に戻れない以上確認の仕様もない。
 救いと言えることは、以前来たことのある無人島に飛ばされたことである。
「瞬きの手鏡は?」
「キカさん」
「自分で持っておけよ……。帰れないだろ」
「ここ、ケネスとタルも知ってる。何とかなるよ」
 欠片も深刻に思っていない様子で答え、カイルは再び亀に視線を戻した。殆ど動かないというのに一体何が面白いというのか。
 あの船に乗ってから大分経つが、テッドにはどうにもカイルという人間が理解出来なかった。
 何より理解出来ないのは、罰の紋章というソウルイーターと近い――似ているようで大分異なるのだが――呪いを持つ紋章を宿しながら、紋章への憎悪も呪いへの恐怖も見せず、必要とあらば躊躇なくそれを行使することが出来る異常なまでの割り切りの良さだった。丁度オベルを奪還した、あの時のように。
 知識として罰の紋章の性質は知っていたが、実際に使われるところを見たのは初めてだった。
 それを感じてしまったのは自らが宿す呪われた紋章のせいだろうか。紋章の力が放たれる瞬間、寒気がした。
 紋章に削り取られたカイルの魂が血を流し、悲鳴を上げているように見えた。あの赤黒い紋章の光も、紋章の咆哮も――。
 その後、倒れて運ばれていくカイルの魂は、今にも消えてしまいそうなほどに弱々しくなっていた。
 今だって、そう。自分の傍らに座っているカイルは普段とまるで変わりない様子なのに、魂だけが違う。まるで燃え尽きる寸前のロウソクの灯のように異常な強さの光を放つそれが、彼の残りの命数を物語っているように見えるのだ。
 こういうものなのだろうか、紋章の呪いというものは。右手に宿る紋章が人の命を刈り取るように、彼に宿る紋章も所有者の命を刈り取り、何時かもわからない終焉まで苦しみを与え続けるのだろうか。彼と自分では、まるで意味が違うけれども。
「――怖く、ないのか?」
 聞いてしまったのは、一瞬そんなことを考えてしまったからだろうか。
「大丈夫。そのうち見つけてもらえるから」
「そっちじゃない……」
 返ってきた言葉にテッドは思わず肩を滑らせた。
 ひょっとして狙ってやっているのだろうか。
「あのな……」
「テッドは?」
「は?」
 いきなり問い返され、ぽかんとする。相変わらず亀から視線を外さぬまま、カイルは普段と変わらぬあまり感情のこもらぬ声で再び問うた。
「テッドは、誰かが死ぬのと自分が傷つくの、どっちが怖い?」
 一瞬何を言われたのはわからなかった。やや間を挟んで、それが先ほどのテッド自身の問いの答えであったことを理解する。
 恐らく、自分は前者だ、と言いたいのだろう。確かにカイルは自分のことを二の次に考えることが多い。しかしそれで自分が死んでしまっては世話ないではないか。
 そんな考えもあってか、それに答えるテッドの声には若干呆れの色が滲んでいた。
「随分なお人よしだな、お前。それで船にいる奴全員助けるって?」
「そんなにはいらないよ」
 思わずぎょっとしてカイルの方を見やる。視線はもたもた動き始めた亀に向けられたままだ。
「死なせたくない人達がいるから、船は守った。それだけだよ」
 紋章の力を見た時とは違う寒気が身内を襲う。まるで人とは違うものを見ているように錯覚さえした。
 たった数人を守るためにあっさりと自分の命をも棄てる、その他に関しては大して鑑みもしない。そんな思考を持つことが出来るカイルが不気味だった。
「……お前、おかしいよ」
「かもね」
 否定は返ってこなかった。一応自覚はあるらしい。
「でも、必要だから使ってるだけだ」
「自分が死ぬことになってもか?」
「まとめて海の藻屑になった方がよかった?」
 どうしてこういうことをさらりと言えるのだろうか、こいつは。
「テッドはよくても僕は困る」
「いいとは言ってない」
「時が来るまで海には渡さない。手の届く限り、絶対に僕が護る。そう決めた」
 そう言い切って見せるカイルを、強いと思えてしまう。たとえ一般人の良識の範囲内から外れていたとしても、だ。
 霧の船で導者の言葉を一蹴してみせた時と同じだ。カイルの紋章は自分の命を削るものなのに。彼は『彼ら』を護るために紋章を使い、生き延びようとしている。半ば執念にも近い意思で。それに比べて自分はどうだ?
 自分の紋章は親しい者の命を喰らうもの。故に人から距離を置いてきた。誰かの死を見ること、そして一人であることを思い知るのが怖くて。今になってもやめることが出来ない。逃げないと誓ったはずなのに。
「……テッド。賭け、しない?」
 不意に、カイルがこちらを向いた。群島の海をそのまま映した蒼の瞳に自分の顔が映り込む。
「賭け?」
「僕はこいつに負けない。負けるほど弱くないって、証明してあげる」
 思わず笑い出したくなった。狙い澄ましたかのようなこの言葉は何だ。こちらの考えていることを読んだとでも言うのだろうか。
「……何賭けるんだよ?」
「負けたら僕死んじゃうし。テッドの好きにすればいい」
 本当に、カイルは平然と自分の死を口にする。
 しかし、それでは賭けにならないことをわかっているのだろうか。少なくともテッドとカイルの賭けは成立しない。まあ言ったところで聞きはしないだろうけど。
「……勝ったら?」
 カイルはしばらく考え込み、やがて少しだけ笑ってこう答えた。
「とりあえず、おまんじゅう食べたい」
「買えってか」

 空は相変わらず高く晴れていて、海に反射する日の光が眩しい。障害物がない故か、エルイールよりも明るく感じた。
 特に何をするでもなく甲板で風に当たりながら、テッドは水平線を眺めていた。船内の葬式めいた空気に耐えられなかったのだ。
 エルイールでの戦の折、罰の紋章が使われた。それ以降、カイルの行方が杳として知れないのだ。小船が一つなくなっていたのでそれを使ったのかもしれないが、エルイール近海をいくら探してもその姿は見つからなかった。テッドの持つソウルイーターにも罰の紋章とおぼしき力を感知することが出来なくなっていた。
 恐らく、紋章に喰われて命を落としたのだろう。近くに人間がいなかった以上、紋章も他の人間に宿ることが出来なかったのだろうか。
 賭けの結果など最早決めようがないが、一応「護る」という目的は果たしたのだろう。罰の紋章は誰に宿ることもなく、クールークの脅威もとりあえずは消えた。そういう意味ではカイルは勝ったのかもしれない。
「何人か護るために一国の海軍ぶち潰す奴がどこにいるんだ。クールークには災難もいいところだな」
 呆れを隠しもせずに呟く。本当に他人の迷惑を気にしない奴だ。
 不意に紋章が微かに疼いた。反射的に意識を集中する。
「……食い意地の張った奴め」
 思わずぼやいて、テッドはブリッジに向かった。

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えらい遅れました……。「三周年」の文字を載せるのがおこがましいくらい……。不調になると私は毎回そうです……。そして本当にタイトルつけるの苦手です……。4主の生き様からテッドが何を見たか、ということを言いたかったのですが……まるっきり意味不明……。
ともあれ、一応完成です。設定を変えてからの4主をまともに書くのはこれが初めてなので大分手間取りましたが……、一応以前出した設定をそれなりに踏まえてはいると思います。設定に書いてはいませんでしたが、我が家の4主が戦う理由は本当にたったこれだけ。その部分を少し強調したら妙に怖い台詞がちらほらと出てきてしまいました……。
テッドとの絡み、というありがちなネタを使ってしまいましたが、4主の在り方はこれが一番出しやすいと思いますので……。賭けの結果は……いわずもがな、ということで。
いまいちまとまりきれていない気もしますが、収拾をつけられたのがこの形なので……見苦しいのはご容赦を。
とりあえず、これにて私的三周年記念祭は終幕です。

「……本当に、行ってしまうんですね」
 自分のかけた言葉にゆるりと振り向いたカイルは、容貌こそ変わらなくともまるで別人のように思えた。海の色をそのまま映した蒼の瞳の奥底で、蹲るように悲しみが揺れている。遥か昔――初めて彼と出会った時に戻ったのではないかという錯覚さえ覚えた。それほどまでに感情が死んでいる。
 覚悟はしていたことだ。自分はエルフで、人とは異なる時の流れに在るのだから。最終的に残るのは自分であると、彼らを友人に持った時点で受け入れたつもりだった。今でも彼らと共に生きたことは後悔していない。
 だがカイルは――。
「……いづらいのも、多少はある。それに……行かなきゃいけないんだ」
 何一つ揺らがぬ端整な顔。普段からあまり感情を出さないが、今は能面のように見えた。
 二十七の真の紋章の一つ、償いと赦しを司る罰の紋章――それがカイルの左手に宿ったのは、もう五十年近く前のことだ。それ以来、カイルの身体は時を止めた。所有者を不老にするという真の紋章の宿命によって。
 本来ならば彼らと同じ時を生きるはずだったカイルが、自分よりも長い――それこそ終わりの見えない生を持ち、次々と老いて死んでいく友人達を変わらぬ姿のまま見送ることはどれほどの苦しみだっただろうか。
 五十年という時は、カイルが孤独を受け入れられるだけの長さではなかったと、今の彼の姿が語っていた。
「残ることは出来ないんですか?オベルの王様も残るように言ってくれたんでしょう?」
「断った。人が住む世界に僕は残れない」
 返ってくる言葉は素っ気なく、まるで意識的に自分を遠ざけようとしているように思えた。
「私には、まだ時間があります」
「種族や寿命の問題じゃない。じきに……僕は君とも違うものになる」
 能面のままであったカイルの顔に、初めて感情が滲んだ。痛みを堪えるように唇を噛み締めている。
 あの戦いを終え、紋章の試練を乗り越えたカイルは徐々に紋章の『声』らしきものを聞くようになっていった。同時にそれがカイル自身を侵食していることが、時と共に理解できた。元々妙に浮世離れした雰囲気を漂わせていたが、今はそれがより顕著になっている。時折彼が何者なのか理解できなくなることさえあった。
「僕は紋章に近すぎるから……。だからそのうち、何も映さなくなる」
 説明不足にも思える言葉。喋ることを得手としないカイルの癖だ。
 何かに対する執着が極端に薄いカイルをこの世界に留める楔が、なくなってしまうのだ。彼らが死に、やがて自分もその後を追ってしまえば、『カイル』を留めるものは何もない。名前さえも失った、罰の紋章の宿主にしか成り得なくなる。人として在ることをやめ、単なる紋章の奴隷に成り下がってしまうのだろう。
 それだけは、嫌だった。
「……カイル。一つだけ……一つだけ、頼んでいいですか?」
 先を促すように首を傾げたカイルを、そっと抱きしめる。
 恋愛感情などない。今も昔も、彼は自分達にとって弟のような存在だった。彼自身に至っては、そもそも「恋」という感情すらわからないと言う。
 だからこそ、彼をこの世界に留める最後の楔として、身勝手な願いを告げよう。最後まで、本当に終わりの見えない彼の生が終末を迎える時まで、彼が「人」として在ることが出来るように――。
「戻ってきてください。五年後でも、十年後でも。あなたが見たもの、聞いたもの、思ったこと――総て、私に教えてください。あなたが心を許せた人を、私にも見せてください。カイル……、あなたが『人』であることを、私に示し続けてください……」
「……一つになってないよ……ポーラ」
 声に初めて柔らかさが灯り、今日初めてカイルが自分の名を呼んだ。腕を放し、お互いの顔を見つめて、微笑する。カイルの笑みはかつてと同じ、蒼色の瞳の奥で揺らぐそれ。
「エルフでは、去った人を忘れることはその人を殺すことだと言います。私は、皆と共に在ります。私の命が尽きるまで。カイル、あなたも……忘れないでください。私だけではなく……皆、あなたと共に在ります。だから……」
 だから、「人」で在ることを棄てないで――。
「……うん。うん……約束」
 口に出せずにいた言葉を読み取ったかのように、カイルが右手を差し出す。それを見て、思わず吹き出しながら自分の小指を絡めた。
「小さい子みたいですね。嘘ついたら……どうします?」
「針千本……?」
 今度こそ、声を上げて笑った。何とか発作を収め、未だくつくつと喉を震わせているカイルの指に、改めて指を絡める。
「私は、カイルを信じています。嘘は……ありませんよね」
「嘘は言わないよ……?守るよ、必ず……」
 柔らかく微笑んで告げるカイルに、やっと小さく安堵を覚える。これならば、少なくともこのままであるならば、カイルはきっと「人」でいられる。
「……戻って、くるよ。ポーラがいるから、ね」

――……指、切った……――

 空は快晴。大海原は彼の瞳の色。
 私はこうして、待っている。
 遠い日の約束を信じて――

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少し古い文章を改変して出しました。手抜きみたいで申し訳ない……。本来書く予定だったものは……おいおい上げます。
一応見ればわかってしまうでしょうが、死にネタ。リノ王もフレアもお亡くなりになっています。
これだけやっといて4主×ポーラではない、というのが微妙な辺りですが……。
とりあえず、我が家の4主の設定、というか4主と罰の紋章との関係設定はこれで大体出せていたと思います。これから何とか性格とかも出していきたいと思っています。最悪設定出して終わりかもしれませんが……。

ともあれ、4発売三周年おめでとうございます。

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